選択肢を提示するということ

 この仕事をしていると、住まいを確保することができないさまざまな困りごとに直面している人の相談に応じる機会がとても多い。このような方々をここでは便宜上、我々の領域で呼ばれている「住宅確保要配慮者」と呼ばせれもらうが、この方々は概して、自身が抱える困りごとを解決するための選択肢を持っていないがために、困っている。

 だからこそ、我々専門的な人間がいかに選択肢になり得る「制度」や「方法」、「実例」を提示できるかということが、極めて重要になる。これまでの経験で言えば、そうした選択肢を提示できれば、大概のことは方針が明確になり、住宅確保要配慮者の方は我々を含む支援者のサポートを受けながら、困りごとを解消していくことができているように思う。

 しかし、縦断的に制度設計されがちな世の中の仕組みからすると、「不動産業界の方は不動産に強い」、「介護業界の方は介護に強い」といった具合に、「専門性」という名の強みを持つ一方で、領域外のことになると、「わからない」という理由で他の詳しい人に相談対応のバトンを託していく。その結果、相談対応のテンポは一気に下がってしまい、困りごとが解決されないという事態が発生してしまう。

 例えばこのようなケースはどうだろうか。単身・身寄りなしの高齢者が別荘地にある戸建てを所有して住んでいるケース。車は所有しておらず、どうやら認知症の症状も出始めてきているようで、訪問系のサービスを入れるために介護保険サービスの利用が始まったという。「ここで一人暮らしを続けることは現実的に難しい」とのことで、転居の相談を受け付けたケースである。簡単な情報の紹介ではあるが、「住宅確保要配慮者の理解」、「介護事業者たちとの連携」、「別荘地にあるこの所有不動産をどうするか」、「新たな住まいはどういう場所が適しているか」、「現在の所持金や資産と今後の収入見込みはどうか」、「住まいを変えるにあたり配慮が必要な医療機関への受診があるのかどうか」など、「困りごとを解決するために求められる力」は実に広範囲に及ぶということがお分かりいただけるだろうか。なお、実はこのケースは当社で対応した実際のケースであり、こうした困りごとに私たちはまずは単独で向き合い、必要に応じて協力者も交えてスピード感をもって対応にあたってる。

 以下の画像の通り、居住支援の領域における住宅確保要配慮者の属性からみてもわかるのだが、「専門性」ではカバーしきれない範囲の広さが求められている。


出典:国土交通省「住宅確保要配慮者とは」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001913425.pdf
(2025年12月24日参照)


 この範囲の広さを受けて、よく国の施策や研修などでは、「専門家が集まってチームになって、困っている住宅確保要配慮者を助けていこう!」ということが推奨される。この施策自体はもちろん重要で、必要不可欠なものではある。ただ一方で欠点として感じる点は、「スピード感を持った対応ができない」ということに尽きる。困っている人は、「いま」、困っているのだ。

 だからこそ私たちは、縦断的にも横断的にも「制度」や「方法」の理解に努めて「実例」を積み重ねてそれを蓄積し、チームで共有することを大切にしている。そうすることで、どのような困りごとが来ても対応できる力を備えようと努めてきたのである。そしてその「積み重ね」が今、少しずつ花を開き、「世のため人のためになることをしよう」という企業理念に合致した支援につながってきていることを感じることができる。これは経営者として、とても幸せなことだ。日々誰かのために共に働いてくれる仲間に感謝。

 この仕事をする上では、様々な選択肢を提示できる「人」であれるかどうかは、極めて重要なのだと、私は思う。

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