【エピソード】「どうしても渡したかったもの」ー業務を超えた入居中支援ー

福島県エリアマネージャー 
遊佐奈央子


私たちは居住支援法人として、支え合い・寄り添うことで”ハハハ”とみんなが笑顔になれるシェアハウスを理念にかかげ、福島県・大分県・静岡県で「つみきの家」を運営しています。

住まいの提供のみならず、その後の入居中の支援として日々の生活相談や金銭管理、介護・福祉サービスとの連携、就職支援など、入居した後のサポートにも力をいれています。

今回は、入居者様のサポート事例をひとつ紹介させていただこうと思います。


住まい確保のその先に

「住まいが決まったら、支援は終わり」

居住支援と聞くと、そう思われる方も多いかもしれません。けれど実際には、住まいが決まったその日から、その方の”暮らし”は本格的に動き始めます。住まいが決まってからがその方との伴走がスタートするのです。

生活が落ち着くまでには、半年、1年、時には数年かかることもあります。その部分のやりとりだけ切り取っても簡単には語りきれないお一人お一人との物語があります。

ただ共通して、住む場所・食べるものがあって、これまで抱えていた問題も解消しはじめ、日々の生活に安心・安全が確保されると、ふと心の奥にしまっていた思いが顔を出すことがあります。誰にも話さずにきた後悔や、どうしても気がかりなことなど内容はさまざまです。
私たちは、「居住支援」に携わる中で、そうした声に何度も出会ってきました。

それは必ずしも、制度や契約に直接関わる話ではありません。ひとりの人間としての生き方のお話、ともいえるかもしれません。

ぽつりとこぼれた「どうしても・・・」

今回ご紹介する、ある70代の男性もそんな一人でした。

この方は、

・病気で入院しており、退院後に介護施設に入所
・両親はすでに他界、兄弟とは不仲で疎遠のため身寄りなし
・収入は最低生活費にも届かず、負債もある
・何とか見つかった介護施設でしたが入所者や職員とのトラブルが多く強制退去

行き場がないとのことでご相談があり、つみきの家に入居となった方です。

つみきの家に入居後も、脳梗塞が再発し失語症が後遺症として残りコミュニケーションが難しくなったり、債務整理が必要だったり、入居者間のトラブルで警察沙汰もあったりで、生活が落ち着き心を開いていただくまでに時間がかかった方でもあります。

そんな方があるとき、日々のやりとりの中で、ぽつりとこんな話をされたのです。

「自分が生きているうちに、どうしても渡しておきたいものがあるんです」

それは、その男性にとって師匠にあたる方の遺品(形見)として託された”ある品”でした。長い人生の中でずっと大切にしてきたものらしく、「自分が亡き後、この品を引き継いで大切にしてくれる人はいないから。これだけは、自分の手で師匠のご家族にお返ししなくてはいけない。」と、思い出話とともに想いを打ち明けてくださいました。

しかし、師匠が亡くなられたのは何年も前のお話しで。この男性の記憶にある住所にはすでに別な方が住んでおり、師匠のご家族となればもはや見つけようがなく、気持ちはあっても、どうにもできない。そのもどかしさを抱えながら、日々を過ごしていらっしゃったようです。

私たちの「業務」とは何か

男性からのお話しを受けたとき、これを読まれている皆さんのお立場であればどうされますか?

プライベートには介入できない、それは業務内容にはない、お話しを聴いて想いは受け止めたい、色々なご意見があるかと思います。

「どこまで関わるべきなのか」

正直に言えば、我々のような居住支援法人も、この話を聞いて何かしなければならないというような制度上の“業務”は定められていません。

ですが、我々の大切にしている社訓の中にこんな言葉があります。

「何ができるだろうか」という初心を忘れないこと

この言葉のとおり、叶えられるかどうかはわからないけど、自分たちにできることをまずはやりつくそうと決めました。

“想い”の実現に向けて

早速、男性の師匠のご家族の居場所探しを始めました。

男性がもっているわずかな手がかりを整理し、名前がのった書籍を発行した出版社に問い合わせてみたり、関係する界隈の方々に連絡し、「この方なら知ってるかも。連絡先教えていいか確認してみます。」と伝言ゲーム式にこれまでのご縁をたどったりしながら少しずつ情報を集め、つないでいきました。時間はかかりましたが、ついにご家族の居場所と連絡先を知ることができました。

大きく息を吸って深呼吸をして…ドキドキしながら一緒にお電話をしてみると、コールが3回ほどなった頃でしょうか、「もしもし」とお電話口に女性の方がでられたのです。

ご本人様は失語もあり会話が難しいので、こちらで事情を説明したところ、「なんでしょう…義父も喜びます」と対面の約束を取り付けることができました。

言葉にならない瞬間

ついに、約束の日がやってきました。ご本人様を車に乗せ、教えていただいたご自宅の住所にむかいました。

ご本人様は、何を話そうか考えているのか、緊張しているのか、車の中は終始無言で、ただただ形見の品を大事に握りしめていました。

そうして目的地に到着し車を降りると、玄関からお電話でお話しした女性が出てきてくださいました。

ご自宅の中に案内いただき、師匠の仏壇に手を合わせた後、茶の間で本日訪問した経緯とご本人様の思いをお伝えさせていただくと、私の話に「そうですか、そうですか」とうなずきながら耳を傾けてくださいました。

本人様から師匠の形見である品をご家族にみせ、いま自分が発することができる限られた言葉で、今日お会いしてくださったお礼と「どうしてもあなたにお返ししたかった」という思いを一生懸命伝えられました。

その空間には言葉を超えた感情が溢れ、二人とも静かに涙ぐまれていました。あの光景と感動は今も鮮明に覚えています。その場に立ち会えたことは、支援者として忘れられない瞬間となりました。

帰り際には、「またいつでもいらしてください」と手を振って見送ってくださいました。

最後に

この出来事のあと、この男性の生活は、どこか穏やかさが増し、笑顔を見せてくださる場面も増えたように感じられました。それと同時に、この一連のやりとりを通じて何かあれば職員に話してくださるようになり他の入居者とのトラブルも次第に減っていったのです。長年胸の奥にしまい込んでいた想いを、自分の手で果たすことができたことが、日々の暮らしに小さな安心をもたらしたのかもしれません。

私たち居住支援法人には、制度上かかげられた役割と限界があります。ご縁をいただいた方のすべての想いに応えられるわけではありませんし、線引きが必要な場面もあります。それでも、「その方の人生にとって今、何が大切か」を考える姿勢だけは、決して手放したくないと考えています。

私たちの業務の範囲内かどうかを考える以前に、目の前にいる一人の人の声に耳を傾け、想いに向き合うこと。その積み重ねが、私たちの考える「居住支援(伴走支援)」だと思うからです。

住まいが確保され、安心・安全な生活の土台が整った先で、その人が自分らしく生きようとする力を、そっと支える存在でありたい。正解のない問いに立ち止まりながらも、「〇〇さんにとっての最善」を探し続けること。それが、私たちがこれからも大切にしていきたい支援の姿です。


その積み重ねの先にこそ、心から「ハハハ」と笑えるシェアハウス・つみきの家の本質があると信じています。

長いブログとなりましたが、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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